渡辺俊介について
80年以上の歴史がある日本プロ野球。近年では、160キロを超える速球を投げる選手も多く出現しています。皆がスピードボールを追い求める中で、全く逆の遅い球を投げ、かつ絶滅危惧種であったアンダースローの投手がいました。その人の名は、渡辺 俊介さん。世界一低いとも言われるリリースポイントから繰り出されるボールで多くの打者を手玉に取りました。本日は、いつものパワプロ記事ではなく備忘録という意味合いも含めて魅惑のアンダースロー渡辺俊介選手の紹介をしたいと思います。
なお今回は、渡辺俊介選手自身の著書「アンダースロー論」のお話も踏まえて紹介します。
価格:110円 |
【スゴ技】渡辺俊介(ロッテ) 史上最低空リリースの幕張のサブマリン | 野球コラム - 週刊ベースボールONLINE
地上5cm、10cmとも言われた低い位置のリリースが特徴的。
アンダースローのきっかけ
本人の談話から
中学2年生までは真上から投げていた。速い球を投げたかったが、中学で125(キロ)ぐらい。プロに行きたかったがコントロールが悪くてこのままでは無理だろうと。そんな時、体の柔軟さに目を付けた父親からの勧めでアンダースローにしてみろといわれたのがきっかけ。
中学3年生のときに見よう見まねでアンダースローをやってみた。ボールが浮きあがる本格派を目指していった結果、どんどん(腕が)下がっていった。
高校時代は、コントロールが悪く、プロは諦めていた。ボールが浮きあがることだけを意識していた。そうすると、スライダーも浮くようになってきた。真っ直ぐがスライダーの投げ方に近づいてきた。
「真っ直ぐは変化球」世界一低いサブマリン・渡辺俊介 唯一無二の投球術を全公開!【ピッチャーズバイブル】 - YouTubeより
投球フォーム
ワインドアップへの拘り
著書では、アンダースローは打たせて取るのが身上のため、バック(を守る野手)とのコミュニケーションが大切だと語っています。
僕はテンポが早いので、 一球一球の間合いは短いと思い ます。
ただ、早さよりも意識しているのは<野手のリズムで投げる>ことらしく、ワインドアップで投げているのも、その方が野手との呼吸を合わせやすいというのが理由らしいです。
先人の教え。参考にした投手たち
前後の距離感
バッターが一番わかりづらいのは前後の距離感。同じフォーム、同じ腕の振りで速い球、遅い球がきたら打者は分からないと著書で話しています。
ここでまたもや、二人のピッチャーの名前を挙げています。
一人は、当時ロッテの大エースだった黒木知宏さん。もう一人は、200勝投手である工藤公康さんです。二人とも共通して上体を真横にしたまま真っ直ぐ移動させているとのことです。渡辺俊介選手がプロに入る前のシドニー五輪(2000年)のパーティーにてこの二人が席にいたそうです。このことを意識して練習したそうです。
黒木 知宏
工藤 公康
工藤さんの投球フォーム解説はこちら
これが実働29年通算224勝できた秘密 工藤公康の投球術【ピッチャーズバイブル】
同じかたちのまま移動して突然、回転した方がバッターを幻惑できる。これならバッターもタイミングを合わせづらい。
スパイクとプレートについて
これまでは、投手板の上に右足を置いてから投球動作を始めていたが、今季は投手板から捕手寄りに降り、右足の右側が投手板に触れる位置から投球するという。[2010年1月26日8時49分 紙面から]
変化球
ストレート
124~5キロ:プロで1番勝っていた時。(本人談)→2005年あたりか?
・スライダーのような投げ方で投げる。イメージはゴルフのロブショットのよう。
・真っ直ぐは変化球だと思って投げている。
・カット気味に浮き上がるのとシュート気味に浮き上がるのを真っ直ぐと言っている。
――今、ストレートは投げていますか?
渡辺: 純粋なストレートは投げていません。――まったく?
渡辺: はい、まったく。
「ソフトボールを下手で投げてもらったのと同じ感覚ですね。カーブもソフトボールのチェンジアップに似ている」(小谷野栄一談)
二大アンダースロー投手の徹底比較。牧田と渡辺俊は打者からどう見える?(2/3) - プロ野球 - Number Web - ナンバー
[公開日2011/05/16 11:55]
もう一つ、渡辺俊介選手といえば、”ジャイロボール”が話題に挙がりますが記事を見つけましたので紹介します。
ジャイロボール
直球についても今年(2007年)からジャイロ回転(球の進行方向と回転軸が一致)をかける工夫を凝らす。
[2007年2月9日]
“ジャイロボール”がうなった。渡辺俊が今年から使っているという、正面から見ると渦巻き状の回転のストレート。スピードは120キロ台ながら初速と終速の差がほとんどないため、打者は速さを感じる。[2007年 02月 14日]
ある年のオールスター中継でロッテのアンダースロー投手、渡辺俊介の投球をスーパースロー再生したときに、ボールの回転がゆっくり、くっきりと映った。「すごい技術だなぁ」と感心して見ていたとき、思わず息をのんだ。まさに、その回転がジャイロ回転ではないか。[2013年4月21日 7:00]
※ある年…渡辺俊介のAS出場は2004年と2005年なのでどちらか
ダイヤモンドの人間学(広澤克実) 「動く球」ってなに? 現代野球に不可欠な武器 - 日本経済新聞
広澤さんが目撃したスーパースロー映像かどうかは不明ですが、渡辺俊介のオールスターに出場した際の映像を入手したのでご覧ください。
「自分のはあくまで『ジャイロ回転』で、ジャイロボールではない」と強調するが、以前は自然にかかっていた回転を「意識して投げられるようになった」という。この日も六回一死一、三塁で松中を併殺に仕留めた球は「カットぎみに投げた」ジャイロ回転の変型版だった。
ジャイロ回転になっているボールを見るとついつい「ジャイロボールだ!!」と思っていまいますが、あくまでジャイロ回転しているだけであって、我々のイメージするジャイロボールとは違うんですね。
カットボール
一番の変化は今年から使い始めたカットボールだった。4番セギノールには走者を背負った場面で3度対戦したが、いずれもカットボールで微妙にシンを外して打たせて取った。「真っすぐと同じスピードで変化する。今年は球種としてしっかり使っていける」と確信。
[公開日2007年5月3日]
スライダー
一番最初に覚えたのはスライダー。投げやすいのはスライダー。
最終的に一番投げやすかったのはシンカー(本人談)
アンダースローを始めたきっかけは?一番投げやすい変化球はシンカーじゃなくて〇〇!【渡辺俊介×山中浩史】【サブマリン対談】【第1話】 - YouTube
カーブ
千葉マリンの時のカーブが打ちにくい(和田一浩談)カーブが止まる(和田一浩談)
チェンジアップ※スカイフォーク*1?
ロッテ渡辺がチェンジアップに取り組んでいる。以前も試したが習得できなかった球種。[ 2013年2月5日 19:16 ]
地面すれすれから繰り出された球は、ふわりと浮き上がってから打者の膝元付近でストンと落ちる。
球速はシンカーより10キロほど遅い100キロに届くか届かないほど。フォークに似た軌道を描く渡辺のチェンジアップは回転が不規則で、「汚い回転の方が打者は嫌がるから」。[ 2013年2月7日 06:00 ]
※記事では野球漫画「ドカベン」の中の里中の魔球「スカイフォーク」と似てるとも。
直球に近い軌道だが、フォークのように回転数が少なく、シュート気味に外に落ちる。(中略)…実は初めて試したのは04年。カーブ、スライダー、シンカーは持っている。でも「打者が嫌がる、回転の汚いボールがなかった」。(中略)…11年には同じサブマリンの西武牧田に投げ方を聞いたが、はまらなかった。試行錯誤の末、昨年11月には中指以外の4本の指でボールを挟むような握りに変えた。すると初めて、イメージと実際の軌道が重なった。[2013年2月7日8時59分 紙面から]
渡辺にチェンジアップの握りを見せてもらうと、中指は浮かせるか、軽くボールへ添えるだけ。残る親指と人さし指、薬指、小指の4本で挟むように握る。下手から放たれたボールは不規則に回転し、打者にとって予測不能な軌道で曲がり落ちる。[2013/2/23 07:00]
サークルチェンジ
プロ1年目の01年。5月19日の合併前のバファローズ戦で研究中のチェンジアップを投じたが、中村紀洋に満塁本塁打を浴び、それ以来封印された。
親指と人さし指でつくった「OK」の形で包み込み、右腕をしならせる。
渡辺俊“ドリームボール”封印解く(スポニチ1/6)2007年1月6日の記事
渡辺がチェンジアップの習得に本格的にトライしたのは04年。「試合でも投げたことはあるけど、そのうち里崎からサインが出なくなって…」。(中略)…それまで親指と人さし指でつくった「OK」の形から…[ 2013年2月7日 06:00 ]
と、ありますが、実は渡辺俊介選手は2007年にサークルチェンジ(チェンジアップ)を投げています。2006年に発刊された自身の「アンダースロー論 (光文社新書)」において
左バッターを抑えるためのボールが、もうひとつ欲しいと思っています。これはまた練習して、身につけるつもりです。
渡辺 俊介. アンダースロー論 (光文社新書) (Kindle の位置No.868-869). 光文社. Kindle 版.
と述べていました。著書では、そこまで対左を苦にしていないと語っていましたが、2006年に関しては苦戦したことが分かります。
条件 | 打率 | 打席 | 打数 | 安打 | 2塁 | 3塁 | 本塁 | 三振 | 四球 | 死球 | 犠打 | 犠飛 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
対右打者 | .246 | 276 | 248 | 61 | 10 | 2 | 8 | 54 | 16 | 3 | 8 | 1 |
対左打者 | .289 | 362 | 325 | 94 | 23 | 1 | 4 | 51 | 19 | 11 | 6 | 1 |
- nf3 - Baseball Data House ロッテ - 投手成績 31 渡辺俊介 -より引
この対左対策としてチェンジアップを2007年春キャンプに練習しています。これは当時のメディアでも取り上げられています。
バレンタイン監督も渡辺俊介選手の取り組みに対して好意的です。長年ロッテの正捕手を務めた里崎智也さんもメディアへのインタビューでこう触れているほどです。
ボビー(・バレンタイン)が1995年にロッテの監督に就任したときには、チーム方針として「ピッチャーは全員チェンジアップを覚えるように」と指導していたこともありました。
春キャンプの映像でもサークルチェンジの投げ込みをしており、OKの握りも見えます。
19日のブルペンにおいて「今の段階では試合で使えないし、僕ならサインは出さない」と厳しい言葉を掛けられた。(里崎智也)
[公開2007年2月20日]
19日にブルペンで受けた時には「使えない」と酷評した里崎も「前と全然違う。公式戦で使える」と太鼓判を押した。「チェンジアップでカウントが取れれば面白い」と渡辺俊。
[公開2007年2月25日]
今季から取り組んでいる新球。地上5センチの低さからストレートと同じ腕の振りで110キロ台の変化球を投じる。
ロッテ・渡辺俊5回1失点!“新兵器”搭載でサブマリン浮上 : 柏マリーンズ情報局
[公開2007年3月16日]
オープン戦や開幕戦においても効果的だったという記事はみかけたものの、その後はあまり取り上げられず。代わりに、同時期に覚えたカットボールの記事はよく見かけましたが、やはりチェンジアップは投げるのが難しかったんでしょうか。
新球のチェンジアップが絶妙の制球に貢献している。「チェンジアップは投げるのが難しいので、他の球種が操りやすくなった」という。
サブマリンが乗ってきた!ロッテ・渡辺俊、絶妙の制球で幻惑! : 柏マリーンズ情報局
[公開2007年5月24日]
「チェンジアップでストライクもアウトも取れている」とバレンタイン監督が絶賛したように、今季マスターした新球が効果的だった。(2007年5月26日の試合)
[公開2007年5月27日]
ツーシーム(シンカー)
シンカーの方が真っ直ぐよりも速い
「真っ直ぐは変化球」世界一低いサブマリン・渡辺俊介 唯一無二の投球術を全公開!【ピッチャーズバイブル】 - YouTube
真っ直ぐが凄かった。(前田智徳談)
※その後、和田一浩に真っ直ぐよりもシンカーの方が速いという話を聞き、真っ直ぐではなくシンカーが凄いという話に。
古田・前田・和田が打てなかった伝説の“魔球”とは【ザ・伝説の野球人大全集】 - YouTubeより
[2021/05/30]公開の下記の動画において、「シンカーが凄い。ギャッていってた」(前田智徳)
高津さんにはプロ1年目のオフ、東都大学野球創立70周年記念プロ対アマ交流戦のときに川尻さん経由で教えてもらったそうです。
フルタの方程式において、高津臣吾さんがシンカーについて触れています。
何人にも教えてきたけど、誰も真似できなかった(高津臣吾)
まさかの逆オファーで現役監督が登場! 高津臣吾 “伝家の宝刀”シンカーの方程式【ピッチャーズバイブル】 - YouTube
渡辺俊介さんの著書では
高津さんのシンカーも「潮崎さんに教えてもらったのがきっかけだ」と言って…
渡辺 俊介. アンダースロー論 (光文社新書) (Kindle の位置No.706-707). 光文社. Kindle 版.
とのことでしたが、フルタの方程式において、大学時代からシンカー自体は投げていたがいわゆるなんちゃってシンカーだったらしく、プロ2年目オフのキャンプにて野村監督に「潮崎みたいなシンカー投げられないのか」と言われたのもきっかけらしいです。
ライズボール
握りはシェイク、投げ方はストレートという魔球だ。
ロッテ渡辺俊が魔球ライズボール挑戦 - 野球ニュース : nikkansports.com
[2008年1月22日9時22分 紙面から]
今季は鬼門を克服するため「ドーム用に」と新球ライズボールを習得。
渡辺俊 鬼門のドームで2年ぶり白星― スポニチ Sponichi Annex 野球
[ 2008年3月24日 06:00 ]
風立ボール
新球は「チェンジアップ、スクリュー、シンカー系」と言う。
俊介が新球「風立ボール」で6回0封 - 野球ニュース : nikkansports.com
[2010年3月15日8時38分 紙面から]
但し、この風立ボール。この記事以外で見かけたことはありませんでした。
真っ直ぐとカーブだけでした(橋本将)カーブも今より遅くなかった。
このままではまずいなと思い始めた(渡辺俊介)
感想
渡辺俊介選手の変化球について調べていたらよくわからなくなったので自分なりにまとめました。私はあくまで渡辺俊介選手自身の証言を元にしているので、当時の資料やデータでは、違う面が見えてくる可能性は大いにあります。しかし、今は本当にいい時代になったと思います。こうしてかつてのプロ野球選手が語ってくれる映像をみることができますし、現役時代の映像も多くネット上にありますので、文字だけでは伝わらない選手の凄さを知ることが出来るのはいいですね。お読みいただきありがとうございました。
参考資料:
価格:110円 |